企業が扱うデータ量は年々増加しており、「ビッグデータ」や「大量データ」というキーワードを耳にする機会も多くなりました。Excelなどの従来ツールで対応しきれなくなり、BIツールであるPower BIを導入する動きが一段と加速しています。しかし、いざPower BIで大規模データを扱おうとすると、
- ファイルサイズが大きくなりすぎてパフォーマンスが落ちる
- 更新に時間がかかりすぎてリアルタイム性が損なわれる
- レポートを開くたびにフリーズしてしまう
- データモデルが複雑になり、管理が大変
といった悩みを抱えるケースも少なくありません。今回は、こうした問題を回避しつつ、Power BIで大量データを効率的に扱うためのポイントを解説していきます。
1. インポートモードとダイレクトクエリの使い分け
Power BIでデータを取り込む方法は大きく分けて2つあります。
1つ目は「インポートモード」。これはデータをPower BI Desktopの中に取り込む形式で、インメモリで圧縮して保管します。高速なレスポンスが期待できる一方、データが増えるとレポートファイルのサイズが大きくなり、メモリ不足や更新時間の増大といった問題が発生する可能性があります。
2つ目は「ダイレクトクエリモード」。これは、データをPower BIの外部(データベースなど)に置いたまま、必要に応じてクエリを投げる方式です。データそのものはレポートファイルに格納されないため、Power BI側のファイルサイズは抑えられる反面、クエリ先の環境や回線速度によってパフォーマンスが左右されやすいという特徴があります。
大量データを扱う場合は、まずダイレクトクエリでテストしてみるのがおすすめです。しかし、すべてをダイレクトクエリにするとかえって遅くなる場合もあるため、部分的にデータを集約・要約(アグリゲーション)するなどの工夫が必要です。状況に応じて、部分インポートとダイレクトクエリのハイブリッドを検討するのも一つの方法です。
2. データモデリングの最適化:スター型スキーマと集約テーブル
大量データを効果的に扱うには、データモデリングの設計が非常に重要です。以下の2つの考え方を押さえておくと、後のメンテナンスや拡張が格段に楽になります。
2.1 スター型スキーマ(Star Schema)
一般的にBIツールでは、ファクトテーブル(事実テーブル)とディメンションテーブル(維度テーブル)を区別し、事実テーブルの周りをディメンションテーブルが取り囲む「スター型スキーマ」が推奨されます。これは、売上や在庫など量的な指標を保持する大きなテーブル(ファクトテーブル)と、「製品マスタ」「顧客マスタ」「日時マスタ」などを分けて管理し、それぞれのリレーションをシンプルに貼る構成です。
なぜスター型が良いかというと、同じディメンション列をあちこちのテーブルに散らばらせないことで、クエリ時の参照がスムーズになるほか、Power BI側の自動集計や推論機能がうまく機能しやすいからです。
2.2 集約テーブル(Aggregation)と要約テーブル
大量データをすべて明細レベルで扱おうとすると、どうしてもパフォーマンスに課題が出てきます。そこで、多くのケースでは粒度を落として集計済みのテーブル(集約テーブル)を用意します。たとえば、日次ベースの売上明細が何千万行もあるなら、月次×製品カテゴリ×地域といった粒度で集約したテーブルを事前に作成し、レポート上で集計を行う負荷を減らします。
Power BIの機能として「Aggregation」(集約テーブル設定)を活用すると、必要なときだけ詳細テーブルにクエリを投げる仕組みを構築できます。結果的に多くの分析場面で高速レスポンスを得やすくなるため、大量データを扱う際にはぜひ検討してみてください。
3. リレーション管理とフィルタープロパティの注意点
データモデルが複雑になると、テーブル同士のリレーション(1対多、多対多など)が増え、意図しないフィルターがかかるなどのトラブルが発生しがちです。特に大量データの場合、1つの誤ったリレーションが大規模な計算を走らせ、レポートのパフォーマンスを著しく低下させる要因になります。
対策としては、最小限のリレーションで済むようにテーブル構造を見直す、あるいは「双方向のリレーション」を乱用せず基本的に片方向(単方向)に限定するなど、Power BIのデフォルト挙動を理解した上で設定することが大切です。また、リレーションを貼る際には、キーとなる列に重複や欠損がないかをチェックし、整合性を保つことが前提となります。
4. インクリメンタルリフレッシュで更新を効率化
大量データを毎回フルリフレッシュ(全件の更新)していると、更新に数十分から数時間かかることも珍しくありません。そこで、有効なのがインクリメンタルリフレッシュ(部分的な更新)機能です。
インクリメンタルリフレッシュを設定すると、一定期間より古いデータは変更がないものとして保持し、新しい期間のデータだけを追加・更新する仕組みが自動化されます。たとえば「過去2年分のデータは固定で、直近1か月分だけ毎日更新する」といった設定ができ、リフレッシュにかかる時間やリソースを大幅に節約できます。大量データを日々更新し続ける場合には、ぜひ取り入れたいテクニックです。
5. DAXとパフォーマンス最適化
Power BIで大量データを扱う際、レポート側のDAX(Data Analysis Expressions)による計算式がボトルネックになることもあります。複雑な計算式や多重ネストされたフィルター処理を多用すると、クエリ実行時に膨大なリソースを消費し、タイムアウトを引き起こすケースもあるからです。
大規模データ環境では、次のようなポイントを押さえてDAXを最適化すると良いでしょう。
- 列ベースの演算を意識する
Power BIは列単位でデータを圧縮・計算するため、行列単位のループを伴う計算より、集計関数(SUM、COUNT、AVERAGEなど)をうまく活用するほうが高速に動作するケースが多いです。 - CALCULATEやFILTERの使い方に注意
むやみにALLやALLSELECTEDでフィルターを解除すると、大量の行を再スキャンする結果になり、パフォーマンスが落ちることがあります。 - 変数(VAR)の活用
同じ式を何度も計算せずに、いったん変数(VAR)に格納して使い回すと無駄な計算が減り、結果として高速化に繋がる場合があります。
DAXのパフォーマンスチューニングはやや専門的に見えますが、基本を押さえて少しずつ最適化していけば、明らかにレポートの速度が向上するケースが多いです。
6. データフローやETLとの連携で負荷を分散する
大量データをPower BIだけで処理しようとすると、PCのメモリやCPU負荷が常に高い状態になりがちです。そこで、データフローを活用したり、別のETL(Extract, Transform, Load)ツールと連携することで、事前にデータのクレンジングや集計を外部で済ませ、Power BIにはなるべく整形済みのデータを渡すというアーキテクチャを組むことができます。
具体的には、Azure Data FactoryやSQL Server Integration Services(SSIS)などの仕組みを使って、データベース側でデータを集計・前処理し、Power BIにはサマライズ後のテーブルを渡す形を取る企業も多いです。これにより、Power BIの負荷をコントロールできるだけでなく、データの一貫したガバナンスを実現しやすくなります。
7. クラウドサービスとの連携と容量管理
オンプレミス環境のみで大量データを扱うのは限界がある場合もあります。そうした場面では、クラウドサービスとの連携を検討してみるのも選択肢の1つです。たとえばMicrosoft Azureのデータウェアハウスサービスや、Databricks、Synapse Analyticsなどと組み合わせることで、Power BIがクエリを投げる先をスケーラブルなクラウド環境にできます。
また、Power BI Serviceでのライセンスによっては、1レポートあたりの容量制限などが存在します。ProライセンスとPremiumライセンスで扱える容量が異なるため、大量データを運用する際には、どのライセンスモデルが合っているかを事前に検討しておくと良いでしょう。Premiumライセンスを使うことで、モデルサイズやデータ更新の制限が緩和され、大量データをよりスムーズに処理できるようになるケースがあります。
8. 運用監視とガバナンス
大量データを扱うプロジェクトでは、導入した後の運用・保守も非常に重要です。レポートを閲覧するユーザーが増えると、その分クエリが増え、データの更新回数も増大します。運用時に気をつけるべき点は以下の通りです。
- データ更新スケジュールの確認
重要なレポートほど、リフレッシュのタイミングや頻度を管理し、不要に高頻度な更新を避ける。 - アクセス権限の設計
大量の機微なデータを含む場合、RBAC(Role-Based Access Control)やRLS(Row-Level Security)を適切に設定し、部門ごと・担当者ごとに見せる範囲を調整する。 - クエリ負荷の監視
Power BI Serviceのプレミアム機能などを利用すると、ワークスペースの使用状況やクエリパフォーマンスをモニタリングできます。異常なクエリの検知や大量の処理リトライが発生していないかを随時チェックすることが、安定運用のポイントです。
ガバナンスと運用体制をしっかり整備しておくことで、トラブル発生時の影響を最小限に抑えつつ、長期的に安定したBI環境を維持しやすくなります。
9. まとめ
Power BIを使って大量データを扱う場合、初期の構築やデータモデル設計の段階でいくつかポイントを押さえておくことで、後々の運用や拡張が格段に楽になります。具体的には、
- インポートモードとダイレクトクエリの特性を理解し、使い分ける
- スター型スキーマをベースにデータモデルを組む
- 集約テーブルやインクリメンタルリフレッシュを活用する
- DAXの最適化を適宜行い、パフォーマンスを維持する
- データフローやETLとの連携で負荷を分散し、クラウド環境を利用する
- 運用面でのガバナンスや監視体制を整備する
これらを踏まえておけば、巨大なテーブルや複雑なリレーションを扱っていても、驚くほどスムーズにビジネスインサイトを得られる可能性が高まります。日々の業務や経営判断のスピードを上げ、データドリブンな文化を育むためには、BIツールの性能と正しい使い方の両立が欠かせません。
もし、こうした運用に不安がある、あるいはコストを含めたシステム全体のアーキテクチャを見直したいという方は、ぜひ専門家に相談することを検討してみてください。
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