BIレポートの運用が辛くなる原因の多くは、「同じデータ準備をあちこちで何度もやっている」ことにあります。売上のCSVを整形し、マスタを結合し、不要な列を落とし、日付型を直し、欠損を補い、計算列を作る。最初は一つのレポートの中で完結していても、レポートが増えるにつれて同じ処理がコピーされ、気づけば“似ているけど少し違う”変換が乱立します。その結果、数字の食い違い、更新時間の長期化、データソースへの負荷増、そして更新失敗時の原因特定の難しさが一気に増していきます。
Power BI Dataflows Gen2は、この「データ準備の重複」を減らし、共通の下ごしらえを複数のレポートやモデルで使い回せるようにする仕組みです。料理に例えるなら、各家庭(各レポート)が毎回いちから野菜を洗って切るのではなく、共通のキッチン(データフロー)で下処理済みの食材を用意しておき、各家庭はそれを使ってメニュー(分析・可視化)に集中する、というイメージです。ここではDataflows(Gen2)の基本と、「データ準備を再利用して運用を安定させる」ための考え方を、なるべく難しい言葉を避けて整理します。
Dataflows(Gen2)でできることを一言で
Dataflows(Gen2)は、Power Queryの変換手順をクラウド側で実行し、整形したデータを保存して、必要な人・必要なモデルが繰り返し利用できるようにする“共有のデータ準備レイヤー”です。ポイントは次の三つです。
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変換処理(取り込み、整形、結合、型変換など)をレポートから切り離せる
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整形後のデータを「出力先(データの置き場所)」に書き出せる
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同じ出力を、複数のセマンティックモデルやレポートが参照できる
従来は、各PBIXの中にPower Queryが入っていて、レポートごとに似たような変換が存在しがちでした。Dataflows(Gen2)を使うと、その変換を中央に寄せられるため、更新や修正の影響範囲が見えやすくなり、運用が“壊れにくく”なります。
なぜ「再利用」が運用の安定につながるのか
運用が不安定になる典型パターンは、次のような連鎖です。
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レポートが増える
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同じ変換をコピーして作る
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どこかで条件が少しだけ変わる(例:返品の扱い、税抜/税込、対象期間)
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数字が一致しない
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調査のために各レポートのクエリを見比べる
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修正しても、別レポートに同じ修正を反映し忘れる
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また数字がズレる
Dataflows(Gen2)で“共通の下処理”を作ると、ズレの原因になりやすい部分を一箇所に集められます。さらに、更新の入口(データソースへのアクセス)も集約しやすくなります。これにより、運用面では次のメリットが出やすいです。
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数字の定義が揃う(同じ整形済みデータを参照するため)
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更新の監視ポイントが減る(データ準備の更新を中心に見ればよい)
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データソースへの負荷を抑えやすい(同じ抽出を何度もしない)
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障害時の切り分けがしやすい(データ準備の段階か、モデル/可視化の段階か)
「再利用」は、単なる効率化ではなく、事故を減らすための設計でもあります。
Dataflows(Gen2)の位置づけ
レポート作りの分業をはっきりさせる
Power BIでのデータ活用は、大きく次の三段に分けると整理しやすくなります。
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A. データ準備:集める、整える、つなぐ(Dataflows(Gen2)が得意)
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B. モデリング:テーブル設計、リレーション、指標(セマンティックモデル)
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C. 表現:レポート、ダッシュボード、配布(可視化と共有)
Aが各レポートの中に埋もれていると、BとCを改善したいのにAが足を引っ張る、という状態になりがちです。Dataflows(Gen2)を使うと、Aを部品化できるので、例えば次のような分業が現実的になります。
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データ準備はデータ担当が管理
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指標は業務担当と一緒に設計
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レポートは利用部門が作る
チームで運用するほど効いてくるポイントです。
具体例で見る
よくある“つらい運用”がどう変わるか
例として、営業実績レポートが3つある状況を考えます。
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経営向け:全社売上と前年差、予算比
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営業マネージャ向け:担当別、商談ステータス別
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商品部向け:商品カテゴリ別、粗利分析
同じ基礎データ(受注、請求、返品、商品マスタ、顧客マスタ)を使っているのに、それぞれのPBIXで取り込みと整形をしていると、更新が3回走ります。元システムが混む時間帯には更新が失敗し、さらに「返品の控除タイミング」がレポートごとに違って数字が一致しない、といった問題が起きます。
ここでDataflows(Gen2)を使って、次のような“整形済みデータ”を作ります。
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売上明細(返品やキャンセルのルールを統一し、日付や金額の型を整えたもの)
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商品マスタ(カテゴリ階層を整え、欠損を補完したもの)
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顧客マスタ(表記ゆれを整え、法人/個人などの区分を統一したもの)
この3つを中央で更新して保存しておけば、各レポートはそれらを参照するだけで済みます。更新は原則1回で、数字のルールも1つ。レポート側は「どの指標をどう見せるか」に集中できます。
「出力先」を意識すると設計が安定する
Dataflows(Gen2)の特徴として、整形後のデータをどこに書き出すか(出力先)を選べる点があります。ここを曖昧にすると、せっかく部品化したのに再利用が進まないことがあります。考え方としては次の通りです。
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整形後のデータは“誰が使っても同じ”形で置く
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置き場所は、複数のモデルが読めるところにする
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更新頻度や容量、運用責任を考えて決める
特に「更新が安定しない」「データ量が増えてきた」という段階では、整形後データを明確な置き場所に固定し、上流から下流へ流す、という流れを作るだけでトラブルが減ります。
導入の進め方
小さく始めて効くところから
いきなり全レポートの作りを変えると、関係者も多く負担が増えます。おすすめは、壊れやすい・重い・同じ処理が多いところから小さく始めることです。
1. 重複している変換を探す
「複数レポートで同じCSVを整形している」「同じマスタ結合をしている」など、よくある処理を洗い出します。ここがDataflows(Gen2)で最初に部品化しやすい領域です。
2. ルールを言語化して一本化する
「売上に返品を含めるのか」「計上日は受注日か出荷日か」など、数字の定義を決めます。Dataflows(Gen2)は変換手順を共有する仕組みなので、ルールが曖昧だと共有しても意味が薄れます。逆にここを揃えると、データ準備の再利用価値が一気に上がります。
3. “整形済みテーブル”として出力し、利用側は参照に徹する
レポート側のPower Queryで再び複雑な加工を始めると、再利用の効果が薄れます。原則として、共通加工はDataflows(Gen2)に寄せ、レポート側は最小限(列の選択、軽いフィルタ程度)に留めると運用が安定します。
4. 監視と失敗時の動きを決める
更新が失敗したときに、誰が、どこを見て、どう判断するか。ここまで決めて初めて“運用”になります。Dataflows(Gen2)に更新を集約できると、この手順書も短くなり、引き継ぎもしやすくなります。
運用を安定させるための設計のコツ
最後に、Dataflows(Gen2)を「便利な共有機能」で終わらせず、運用を安定させるためのコツをまとめます。
レイヤーを分けて考える
最初は難しく見えますが、データを3層に分けるだけでも整理が進みます。
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Raw:元データをほぼそのまま(必要なら履歴も残す)
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Clean:型や欠損、表記ゆれを整えた“共通で使える形”
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Mart:部門別に使いやすい粒度にまとめた形(例:日次売上、週次KPI)
Dataflows(Gen2)はCleanを作る用途で特に効果が出やすいです。
命名と説明を丁寧にする
“誰かが作ったけど誰も触れない部品”にならないように、テーブル名や列名、簡単な説明を整えます。これだけで再利用率が上がり、結果として運用が安定します。
更新時間は「安定」を最優先に設計する
更新が遅いと、失敗しやすいだけでなく、業務開始前に間に合わない、といった事故に直結します。更新頻度と時間帯を決め、必要なら増分更新や分割など、データの流し方を見直します。Dataflows(Gen2)で更新ポイントを集めておくと、この設計がやりやすくなります。
変更は“上流の一回”で済む形にする
列の追加やルール変更が起きたとき、レポートを10個直すのは現実的ではありません。Dataflows(Gen2)で共通の整形済みデータを作っておけば、上流の変更が一回で済み、影響確認も早くなります。
どんなときに向いているか
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同じデータ準備が複数のレポートで繰り返されている
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更新失敗が起きやすく、原因が追いにくい
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数字の定義がレポートごとにぶれてしまう
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データ量が増えて更新が重くなってきた
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データ準備とレポート作成を分業したい
まとめ
Dataflows(Gen2)は「安定運用のための下ごしらえ」を作る仕組み
Dataflows(Gen2)は、Power BIの中で繰り返されがちなデータ準備を、共有できる形にまとめるための仕組みです。データ準備を再利用できるようになると、数字の定義が揃い、更新の監視ポイントが減り、障害時の切り分けもしやすくなります。結果として、レポートが増えても運用が破綻しにくい土台ができます。
「レポートが増えてきて更新が不安」「同じ加工を何度もしている気がする」と感じたら、まずは共通で使える整形済みデータを一つ作るところから始めてみてください。Dataflows(Gen2)は、派手な機能というより、運用を安定させるための設計を実現しやすくする道具です。道具の使い方を“再利用”の視点で揃えるほど、チーム全体のデータ活用は楽になっていきます。
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