1. はじめに|ネットワーク分析とは何か?
ネットワーク分析(Network Analysis)とは、「人・組織・物」などのノード(点)と、それらを結ぶ関係(エッジ)を可視化・分析する手法です。
ビジネスの現場では、以下のような用途で活用されています:
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顧客と製品のつながり(推薦システム)
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社内の組織図や人材ネットワークの把握
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SNS上のフォロー・リツイート関係
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サプライチェーンの構造把握
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Webページ間のリンク構造(SEO分析)
つまり、ネットワーク分析は「関係性を可視化して、パターンや影響力を探る」ための強力なツールです。
2. Tableauでネットワーク分析はできるのか?
結論からいうと、Tableau単体では「本格的なネットワーク分析機能(グラフ理論ベース)」は非対応です。
しかし、工夫すればネットワーク構造の“視覚的な可視化”は可能です。
✅ 具体的にはこんなことが可能:
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ノード間の関係を散布図や円グラフで表現
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ノードとエッジの関係データ(2列形式)を使った疑似ネットワーク図の作成
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外部ツール(Python・R・Gephiなど)でネットワーク構造を作り、Tableauで可視化
🔍 ポイント: Tableauは“関係性をビジュアルに表す”ことに優れているため、複雑なネットワーク構造の把握や共有に向いています。
3. ネットワーク分析の基本用語をおさえよう
Tableauで可視化する前に、ネットワーク分析の基本的な構造と用語を理解しておくとスムーズです。
用語 | 説明 |
---|---|
ノード(Node) | 人、製品、拠点などの「対象」 |
エッジ(Edge) | ノード間の「関係」や「接点」 |
有向グラフ | A→Bのように“方向”がある関係(例:フォロー関係) |
無向グラフ | 相互の関係(例:共同購入) |
重み(Weight) | エッジにかかる数値(頻度・回数・強さ) |
中心性(Centrality) | 影響力やネットワーク内での重要度 |
4. データ形式の準備|Tableauでネットワークを表現するには?
Tableauでネットワーク分析風の可視化を行うためには、データの構造が最も重要です。
✅ 推奨されるデータ形式(エッジリスト形式)
source | target | weight(任意) |
---|---|---|
A | B | 5 |
A | C | 2 |
B | D | 3 |
このように、「誰から誰への関係があるか」を1行ずつ記述したCSVファイルが基本です。
✅ 追加情報があると分析の幅が広がる
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各ノードの属性(例:部署、カテゴリ、タイプなど)
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エッジのタイプ(例:友人、上司、購入関係など)
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時系列情報(いつつながったか)
これらを結合・フィルターすれば、さらに深い分析が可能です。
5. Tableauでネットワーク可視化を行う2つのアプローチ
アプローチ①:散布図×ノードラベルで簡易的なネットワーク図を再現
散布図のX軸・Y軸にノードの位置情報を割り当てて、以下を設定することで疑似的なネットワーク図が作成できます。
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ノードサイズ:重みや影響度(例:売上・登場回数)
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ノード色:属性(例:地域・部署・カテゴリ)
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ラベル表示:ノード名
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ツールチップ:関係の詳細情報
この方法は、ノードごとの「つながりやすさ」や「傾向」をビジュアルで把握するのに便利です。
アプローチ②:PythonやRでレイアウト計算 → Tableauで描画
より本格的なネットワーク構造(Force-directed layoutなど)を可視化したい場合は、以下のステップを活用します。
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Python(NetworkX)やR(igraph)でレイアウト(X/Y座標)を計算
-
出力されたCSVにノード名・X・Y・重みなどを含める
-
TableauでX/Yを使って散布図を作成
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エッジリストもJOINして、関係線を描画(パスライン機能やPath IDを使用)
これにより、「視覚的に正しいネットワーク構造」を描くことが可能になります。
6. 実践チュートリアル|Tableauでネットワークを可視化するステップ
ここでは、Pythonで作成したネットワークのレイアウトをTableauで描画する手順を紹介します。
✅ 前提:用意するデータ
ファイル名 | 説明 |
---|---|
nodes.csv |
ノード情報(ID、名前、X座標、Y座標など) |
edges.csv |
エッジ情報(source、target、weightなど) |
✅ ステップ1:Pythonでノードの座標を計算
✅ ステップ2:Tableauで描画
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Tableauを起動し、nodes.csvとedges.csvを読み込む
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[nodes]と[edges]をJOIN(source/targetベース)
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シートでX軸に「x」、Y軸に「y」を配置し散布図を作成
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ノードに名前、サイズ、色などを付与(属性によってカスタマイズ)
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エッジ描画には「パスライン機能」や「dual axis(二重軸)」を使って線を追加
🧩 補足:Tableauはグラフ理論には弱いため、中心性やクラスタリングなどの高度な分析はPythonやRで処理し、その結果をTableauに渡すという「ハイブリッド構成」が理想的です。
7. 業務での活用事例|Tableauでネットワーク分析が活きるシーン
🏢 ① 組織内の人材ネットワーク可視化(人事領域)
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メールの送受信ログから部署間の交流状況を可視化
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コミュニケーションが少ない部門を可視的に把握し、研修・交流促進に活用
📊 ② サプライチェーン分析(製造・物流)
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部品と供給元のネットワークを可視化し、依存関係・ボトルネックを見える化
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災害やリスク発生時に影響を受けるノードを瞬時に把握
🧑💻 ③ SNSキャンペーンの拡散分析(マーケティング)
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インフルエンサーとそのフォロワーの関係を可視化し、拡散力の高いノードを特定
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キャンペーン施策のターゲット選定に活用
🛍 ④ 顧客と製品の購入関係分析(EC)
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商品と顧客の「共同購入パターン」をネットワークで可視化
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レコメンド施策の設計や類似商品分析に応用可能
8. Tableauでネットワーク分析を導入する際のコツ
✅ コツ①:事前にネットワークの構造を紙で描いてみる
どんなノード・エッジが必要か、関係性は有向か無向か、などを整理するとデータ設計がスムーズになります。
✅ コツ②:ノードとエッジは別ファイルで管理する
JOINの自由度が上がり、後から属性を追加したり更新する際に扱いやすくなります。
✅ コツ③:Python/Rとの連携を前提に設計する
Tableau単体ではネットワークの「構造」は作れないため、座標や中心性の計算は外部ツールで行い、Tableauでは描画に特化させるのがベストです。
✅ コツ④:Tableauの「データブレンド」機能を使い分ける
ノードとエッジでデータの粒度が異なる場合、結合よりブレンドの方が整合性が取りやすいケースもあるため、状況に応じて使い分けましょう。
9. よくある質問(FAQ)
Q. Tableauはネットワーク図を標準で作れる?
A. いいえ。標準ではネットワークグラフを描画する機能はありません。 しかし、座標付きのノード・エッジ情報を使えば疑似的に表現することは可能です。
Q. Pythonなど使わずにTableauだけで描けない?
A. 非常に限定的な場合(ノードが固定・構造が単純など)は可能ですが、レイアウト計算や動的表現には限界があります。
Q. Web上に公開できますか?
A. はい。Tableau PublicやTableau Cloudにアップロードすれば、ネットワーク図もインタラクティブに共有可能です。
Q. 中心性などの指標はTableauで計算できる?
A. 基本的には不可です。NetworkX(Python)やigraph(R)での事前集計を推奨します。計算後の結果をTableauに読み込んで活用します。
10. まとめ|Tableauで“関係性”を見える化するネットワーク分析の可能性
Tableauは、単体ではネットワーク分析の専用ツールではありませんが、「関係性の可視化」を直感的に、インタラクティブに行える強力なツールです。
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