Power BI を導入すると、最初は「レポートが作れた」「ダッシュボードが動いた」で達成感があります。ところが数週間〜数か月経つと、別の課題が出てきます。
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作ったレポートが、本当に見られているのか分からない
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閲覧者が増えない/一部の人しか使っていない
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「どれが正しいレポート?」が増えて、探すのに時間がかかる
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会議前だけ見られて、日常業務では使われない
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改善したいのに、どこから手を付ければいいか判断できない
この段階で効いてくるのが 利用状況(Usage metrics) です。
「誰が、いつ、どれを、どのくらい使っているか」を把握できれば、Power BI 活用は“勘”ではなく“データ”で改善できます。この記事では、Usage metrics を使って活用度を見える化し、定着へつなげるための分析の進め方を、実務目線で丁寧に解説します。
1. 利用状況を測る目的は「監視」ではなく「改善の優先順位付け」
最初に大切なのは、Usage metrics を“チェック”で終わらせないことです。
目的は「誰が見ていないのかを責める」ではなく、次のような改善につなげることにあります。
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投資対効果:作ったレポートが業務で使われているか
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定着の兆し:利用者が増えているか/継続して見られているか
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改善の当たり所:どのレポートを伸ばすべきか/どれを整理すべきか
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運用の健全性:特定のレポートに問い合わせが集中していないか
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ガバナンス:重複レポート・放置レポートを減らせるか
つまり Usage metrics は、Power BI を“作るプロジェクト”から“育てる運用”へ移行するための、超重要な計器です。
2. Usage metrics で見えるもの・見えないものを押さえる
Usage metrics で見える世界を正しく理解すると、分析がぶれません。
見えるもの(代表例)
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どのレポート/ダッシュボードがどれくらい閲覧されているか
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ユニークな閲覧者数(どれくらいの人数に届いているか)
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期間ごとの閲覧推移(増えているか、減っているか)
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どのページが見られているか(ページ単位の人気・離脱の兆し)
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閲覧のタイミング(曜日・時間帯の偏りが見えることも)
見えにくい/注意が必要なもの
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「見た」=「業務で使った」ではない(開いただけの可能性)
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外部共有や埋め込みの形態によっては、見え方が限定される場合がある
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指標の意味や集計ルールは、組織設定や機能更新で変化することがある
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反映にタイムラグがあることが多い(リアルタイム計測ではない前提で運用する)
Usage metrics は万能な監査ツールではなく、**利用傾向を把握して改善するための“運用ダッシュボード”**と捉えるのがちょうど良いです。
3. どこから見られる?(見るための前提とコツ)
一般的には、Power BI Service 上で対象のコンテンツ(レポートやダッシュボード)に対して、メニューから利用状況を開けます。
ただし、組織の権限設計や設定によって、閲覧できる範囲が変わります。
まず確認したい前提
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自分がそのレポート/ダッシュボードを見る権限を持っているか
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ワークスペースでの役割(閲覧者・投稿者・メンバーなど)
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管理者側の設定で、利用状況の可視化が制限されていないか
実務のコツ
利用状況を“見るだけ”だと、改善アクションに落ちにくいことがあります。
そこでおすすめなのが、Usage metrics を「改善会議の定例ネタ」にすることです。
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週次:主要レポートの増減、異常な落ち込みがないか
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月次:定着状況(継続利用・伸びたレポート・死んだレポート)を棚卸し
見える化は、運用の習慣にして初めて効果が出ます。
4. 「定着」を見える化するための指標設計(ここが肝)
利用状況を見ても、「で、良いの?悪いの?」が決められないと動けません。
定着を測るなら、次の3つの観点で指標を設計すると迷いにくいです。
4-1. 到達(Reach):どれだけの人に届いているか
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ユニーク閲覧者数
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閲覧者が増えているか(前月比・前週比)
到達が伸びない場合、内容以前に「知られていない」「探せない」「入口がバラバラ」などの導線問題が疑われます。
4-2. 継続(Retention):続けて使われているか
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毎週見ている人がいるか(週単位の継続利用の兆し)
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月初だけ/会議前だけ、など偏りが強すぎないか
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“一度見たきり”のレポートが多くないか
継続が弱い場合は、数字が更新されない、欲しい粒度がない、遅い、使いにくいなど「体験の質」が原因になりやすいです。
4-3. 集中(Concentration):一部の人・一部のレポートに偏っていないか
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上位数本のレポートに閲覧が集中しているか
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特定の担当者だけが見ていないか(属人化の兆候)
集中が強すぎると、「その人がいないと回らない」「他部署に広がらない」運用になりがちです。ここは早めに手を打つと、後から効きます。
5. まずやるべき分析ステップ(迷わない順番)
定着の改善は、いきなり全レポートを対象にすると失敗しやすいです。
おすすめの順番は次の通りです。
ステップ1:対象を絞る(最重要10本から)
まずは「本来、使われていないと困る」レポートを選びます。
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経営KPI
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営業会議で使う数字
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月次締めで使う集計
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現場の毎日オペレーションで使う一覧
ここから外れる“趣味レポート”を最初に改善しても、定着にはつながりにくいです。
ステップ2:利用推移を見て、分類する
対象レポートを次の3つに分類します。
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A:伸びている(勝ち筋がある)
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B:横ばい(改善で伸びる余地あり)
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C:落ちている/ほぼ見られていない(原因究明 or 整理候補)
ここで重要なのは、「Cを全部改善しよう」としないこと。
Cは “整理”が正解 になることが多いです(後述)。
ステップ3:ページ別に見て“刺さっている箇所”を特定する
レポート全体は見られていても、実は
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1ページ目だけ開いて閉じている
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特定ページだけしか見られていない
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逆に「このページは誰も見ていない」
が起きがちです。
ページ別の差分が見えれば、改善の打ち手が明確になります。
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見られているページ:他レポートへ横展開できる“成功パターン”
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見られていないページ:削除・統合・導線変更の候補
ステップ4:利用者の偏りを見る(属人化・浸透不足を発見)
閲覧者が特定の数名に偏っている場合、よくある原因は次の通りです。
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“その人だけが知っている”レポートになっている(周知不足)
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入口が複雑で、たどり着けない
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数字の定義が難しく、他の人が使う自信がない
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レポートの読み方が共有されていない
改善は「レポートを直す」だけでなく、「使い方を渡す」も含まれます。
6. 見える化した後にやること:定着させる改善アクション集
Usage metrics で“どこが弱いか”が分かったら、次は改善です。
ここからは、実務で効きやすい打ち手を「原因別」に整理します。
6-1. 到達が弱いとき(そもそも見られていない)
症状
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閲覧者数が伸びない
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作ったのに存在が知られていない
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どれを見るべきか分からず、使われない
打ち手
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公開の窓口を一本化(「このアプリを見ればOK」状態にする)
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“公式レポート”の置き場と命名規則を整備
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レポートの入口ページに「このレポートで分かること」を明記
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社内告知を“1回で終わらせない”(週次会議、月次の定例で繰り返す)
到達改善は、機能よりも運用設計で決まります。見つからないものは使われません。
6-2. 継続が弱いとき(見たきりで終わる)
症状
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最初は見られたが続かない
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会議前だけアクセスが増える
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同じ人が毎回見ていない
打ち手
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更新頻度と鮮度を明確化(“いつ更新されるか”が分からないと使われない)
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1ページ目に「今日の結論(要点)」を置く(読む負荷を下げる)
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遅いレポートは高速化(開くのに時間がかかると定着しない)
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“次に見るべき内訳”を用意して自己解決できるようにする
継続の敵は「面倒」「遅い」「分からない」です。ここを潰すと伸びます。
6-3. 集中が強いとき(属人化している)
症状
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2〜3人しか見ていない
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特定のチームにしか浸透しない
打ち手
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“読み方”をセットで渡す(例:3分の使い方、見る順番、判断基準)
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KPI定義(用語の説明)をレポート内に埋め込む
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役割別の入口ページを作る(営業向け、管理者向けなど)
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現場の会話(会議)で“そのレポートを使う”運用を作る
属人化を解くには、レポートの完成度だけでなく“利用の型”が必要です。
7. 「使われないレポート」をどう扱うか(整理は正義)
Usage metrics を見ると、必ず「ほぼ見られていないレポート」が出てきます。
ここでよくある失敗が、「全部を改善しようとする」ことです。
実務でおすすめの考え方は次の通りです。
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使われない理由が明確で、価値がある → 改善対象
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目的が終わった(期間限定の分析、プロジェクト終了) → アーカイブ
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似たレポートが複数ある → 統合して一本化
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誰もオーナーがいない → 原則整理(増殖の温床)
レポートは増えるほど、利用者は迷います。
定着を狙うなら、「増やす」より「減らして分かりやすくする」方が効くことが多いです。
8. “改善が効いたか”をUsage metricsで検証する(PDCAの回し方)
定着活動で重要なのは、改善して終わりではなく、効果検証まで回すことです。おすすめの型は以下です。
週次(軽め)
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主要レポートの閲覧者数/閲覧回数の変化
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極端な落ち込みがないか(更新失敗・権限変更の兆候)
月次(しっかり)
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レポート別:到達(閲覧者数)、継続(推移)、集中(偏り)
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“伸びた理由/落ちた理由”の仮説を立てる
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改善施策を1〜3個に絞って実行
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翌月に同じ指標で検証
「指標を見て、仮説を立て、少数の施策を試す」
このサイクルに乗ると、Power BI は確実に育ちます。
9. よくある落とし穴(見える化が逆効果になるパターン)
最後に、Usage metrics 活用でありがちな罠も押さえておきます。
落とし穴1:数字を“評価”に使い、現場が萎縮する
利用状況は改善の材料であり、個人評価にすると協力が得にくくなります。
「伸びない=悪」ではなく「伸ばすために何を変えるか」に焦点を当てるのが安全です。
落とし穴2:閲覧回数だけを追い、質を無視する
一瞬開いて閉じてもカウントされることがあります。
「閲覧回数が増えた」だけで満足せず、継続利用やページ別の偏りもセットで見ましょう。
落とし穴3:季節性や業務サイクルを無視する
月初・月末・四半期・繁忙期など、利用が増減するのは自然です。
“いつもの波”を理解した上で判断すると、誤解が減ります。
落とし穴4:改善対象を広げすぎる
最初から全レポートに手を出すと、運用が続きません。
最重要レポートから始め、成功パターンを横展開するのが近道です。
まとめ:Usage metricsは「Power BIを育てるための経営指標」
Power BI の定着は、センスではなく運用です。
利用状況を見える化し、到達・継続・集中の観点で整理し、少数の改善施策を回す。これだけで、活用度は確実に上がっていきます。
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見られていないなら「見つけやすさ」と「周知」を整える
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継続しないなら「更新・速度・読みやすさ」を改善する
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偏っているなら「読み方」と「利用の型」を作る
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使われないものは潔く整理し、迷子を減らす
Usage metrics を“眺める”のではなく、“改善の優先順位を決める道具”として使う。
この一歩で、Power BI は「作っただけのレポート」から「使われ続ける業務基盤」へ変わります。
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