はじめに:共有は「見る人の行動」を起点に設計する
同じ可視化でも、誰が・いつ・どこで・何のために見るかで最適な共有方法は変わります。
本記事は、現場でよくあるシーンをカバーしながら、最短の共有手順→安全な権限設計→埋め込み/外部配布→自動配信と運用まで実務の型で整理しました。迷ったときはそのままチェックリストとして使えます。
1. 共有パターン早見表(まず自分のケースを決める)
目的 | 相手 | 形式 | 推奨手段 | 速さ | リスク |
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インタラクティブに閲覧 | 社内 | Web | 発行(Cloud/Server)→リンク共有 | 高 | 低 |
定例会議用 | 社内/取引先 | 静的 | PDF / PowerPoint | 高 | 低 |
二次加工 | 社内分析者 | 数値 | Excel/CSV(要約/完全) | 中 | 中 |
外部サイトに掲載 | 顧客/パートナー | Web埋め込み | 埋め込みコード/JS API | 中 | 中 |
特定の絞り込みを再現 | チーム | Web | カスタムビュー共有 | 高 | 低 |
自動配布 | メンバー/役員 | メール | サブスクリプション/アラート | 高 | 低 |
原則:能動的に触る相手=Web、見るだけ=PDF/PPT、加工=Excel/CSV。
社外配布は埋め込み+権限が安全(添付ファイル配布は原則避ける)。
2. 発行してリンクを共有(Cloud/Serverの基本オペ)
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発行:ワークブックをプロジェクトへ発行(固定サイズ・タイトル・説明・担当者を設定)。
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共有リンク:画面右上「共有」からURLを取得。必要に応じてツールバー/タブ非表示などURLパラメータで調整。
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アクセス権:サイトロール(Viewer/Explorer/Creator)とプロジェクト権限を設定。グループ単位で付与し、**Locked(継承固定)**で運用すると事故が減ります。
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既定表示の整備:初期フィルター・ソート・デバイスレイアウト(PC/タブレット/Phone)を調整。
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利用導線:コレクションで関連ダッシュボードを束ね、トップページを「入口」にする。
URLパラメータ例(代表)
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タブ/ツールバー非表示:
?:tabs=no&:toolbar=no
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特定シート直リンク:
/views/Workbook/Sheet
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フィルター適用:
?地域=関東&年度=2025
(※閲覧者権限内のデータのみ表示)
3. カスタムビューで“同じ見え方”を共有
フィルター・表示モード・並べ替えを保存して個人用ブックマーク化。
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個人の保存→自分用
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公開→同僚と共有(URLで再現)
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既定に設定→リンクを開いた瞬間にその状態で表示
カスタムビューは**役割ごとの“決算版/支店長版/担当者版”**を作るのに最適です。
4. PDF/PowerPoint/画像で配布(会議・回覧用)
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PDF:複数シートをページ化(A4/A3、余白10–15mm、ページ番号と日付)。
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PowerPoint:1シート=1スライドで出力し、会議で注釈・補足を追記。
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画像(PNG):メールや社内ポータルに貼るなら最速。ダッシュボードは固定サイズで設計すると崩れにくい。
静的配布はデータの最新性を保つため、抽出更新→配信の順でスケジューリングする。
5. Excel/CSVでの共有(数値の再利用)
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要約データ:表示粒度の数値をそのまま出力(クロス表→Excel)。
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完全データ:明細を出力(RLS/フィルターの影響を受ける)。
注意:数値は数値型のまま出す(文字列書式への変換は避ける)。列名は業務名に揃え、0とNULLの扱いを厳密に。
6. サブスクリプション&アラート(自動配布)
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サブスクリプション:ダッシュボード/カスタムビューを定時メール。閲覧者は自分の既定フィルターで受け取れる。
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アラート:メジャーが閾値を超えたら通知。しきい値と頻度は担当が自分で編集できるように。
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運用の型:**抽出更新→(アラート/サブスク)**を同一スケジュールに連結。配布の“古いデータ”事故を防ぐ。
7. 埋め込み共有(社内ポータル/外部サイト/アプリ)
7-1. 方法と選び方
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iframe埋め込み:最短。URLパラメータで外観調整。
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JavaScript/Embedding API:フィルター連携・イベント制御・ログイン統合など高度な体験。
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認証:SSO(SAML/OIDC)や“接続済みアプリ”を使い安全に。ゲスト/匿名公開は原則NG。
7-2. 実務Tips
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許可ドメインをホワイトリスト化(X-Frame-Options/CSPに注意)。
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レスポンシブ:親コンテナの比率を維持、初期サイズは固定で安定化→画面幅で調整。
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lazy load:折り畳み領域は遅延ロードし、体感速度を上げる。
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機能制御:ダウンロードやフィルター編集は権限で抑制(“閲覧専用”を徹底)。
8. 社外共有とライセンス/権限の考え方
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閲覧者:基本はViewerロール。頻繁に絞り込み・Web編集が必要ならExplorer。
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グループ運用:部門/顧客/役職でグループ化して付与。個別権限は最小に。
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RLS(行レベルセキュリティ):ユーザーID×許可範囲のマッピング表を関係でつなぎ、データソースフィルターに
USERNAME()
を1行だけ置く。 -
監査:コンテンツごとに担当者/連絡先を説明欄に記載、更新失敗はアラートで捕捉。
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外部埋め込み:SSOやトークン連携で再認証無しに。単純な匿名公開は避ける。
9. “壊れない共有”を支えるガバナンス
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プロジェクト階層:
/sandbox
→/staging
→/production
の3段。Lockedで継承。 -
命名規約:
[部門]_[対象]_[粒度]_[版]
(例:Sales_Region_Monthly_v3)。 -
データ辞書:定義・分母・更新頻度・責任者・最終更新日を説明欄に。
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コンテンツ認定:正本は認定マーク、過去版はアーカイブへ。
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利用状況の棚卸し:閲覧/再訪/サブスク数で“死んだダッシュボード”をクリーンアップ。
10. パフォーマンスを“共有視点”で最適化
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初期表示を軽く:期間=直近3〜6か月、粒度=月、点(マーカー)無し。
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マーク数の上限:TopN+“その他”、詳細はアクションでドリル。
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抽出(Hyper)+増分更新:更新が終わってから配布。
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地図/表計算の負荷:重い処理は前計算or別シート化。
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固定サイズ:PDF/PPT/埋め込み先に合う比率で作る(16:9が会議標準)。
11. よくあるトラブルとすぐ効く対処
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「権限がありません」:発行先プロジェクトの権限をグループで付与、Lockedで固定。
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URLでフィルターが効かない:パラメータ名の全角/半角/スペースに注意、値は実データと一致させる。
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外部で読み込めない:許可ドメイン設定/CSP/SSO設定を再確認。
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配布物が古い:更新と配信の順序をチェーン。
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Excelで桁区切りが消える:数値は数値のまま出力(見た目はExcel側で書式化)。
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RLSが効かない/漏れる:マッピング表のキー不一致が原因。大文字小文字/空白を
UPPER/TRIM
で正規化。
12. 15分で“配れるかたち”を作る最短レシピ
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固定サイズとタイトル・説明・担当者を設定。
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初期フィルター(期間/地域)を決め、カスタムビューを保存(役割別)。
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発行→プロジェクトのLocked権限を確認、グループを付与。
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共有リンクを発行、必要なら
?:toolbar=no
で外観調整。 -
PDF/PPTを出力して会議用に添付、**Excel(要約)**を併せて配布。
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サブスクリプション(毎週月曜9:00)とアラート(KPIしきい値)を設定。
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コレクションに関連可視化を束ね、入口導線を作る。
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運用文書(更新手順・連絡先)を説明欄に記載。
13. 共有前チェックリスト(配布前の最終確認)
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タイトル・説明・担当者・最終更新日が明記されている
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初期表示が軽い(期間・粒度・点の扱い)
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権限はグループ+Locked、RLSが意図通りに効いている
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カスタムビュー(役割別)が用意されている
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サブスクリプション/アラートが更新チェーンに連結済み
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PDF/PPT/Excelの崩れ/型を確認済み
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埋め込み先の許可ドメイン/SSO設定が完了
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データ辞書・定義・問い合わせ先が説明欄にある
まとめ
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共有は相手の行動から逆算し、Web/静的/数値/埋め込みを使い分ける。
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安全運用の鍵はグループ権限+Locked+RLS、そして抽出更新→配信の直列化。
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定着の要はカスタムビュー/コレクション/サブスク/アラートで“使われる導線”を作ること。
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仕上げに固定サイズ・軽い初期表示・明確な説明欄。ここまで整えば、誰にでも迷いなく届けられます。
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