はじめに:年度累計(YTD)の重要性
ビジネスシーンでよく使われる指標に「YTD(Year To Date)」があります。これはある会計年度の開始日から、ある日付までの累計値を示すもので、日本では一般的に4月〜翌年3月を1年度とするケースが多いでしょう。たとえば、「2023年度」は2023年4月1日から2024年3月31日までの期間を指します。「年度累計売上」「年度累計コスト」のように、指定した年度の始まりから現時点までの合計を出す場面は多々あります。
Power BIで年度累計を表示したい場合、DAX関数をうまく利用して必要なメジャーを定義し、さらに「日付テーブル」を用意して適切にリレーションを組むことがポイントです。本記事では、年度累計を作成するための基本的な方法や、応用に向けた考え方、またPower BI活用をさらに進めるための学習・コンサル支援についても紹介します。
年度累計(YTD)とは?
改めて、年度累計とは何かを整理しておきましょう。
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年度累計(YTD: Year To Date)
会計年度の開始日から指定した日付までの合計。日本企業に多い会計年度は4月始まりで、翌年3月末までが1年間となります。 -
例:4月1日が年度開始日の場合
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「2023年度」の期間:2023年4月1日〜2024年3月31日
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もし7月末の値を知りたい場合、4月1日〜7月末日の合計が「年度累計」となります。
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このような年度ベースの集計が求められるケースは多く、Power BIを使えば「月ごとの実績と年度累計を同じレポートで比較する」などの高度な可視化が簡単に実現できます。
Power BIで年度累計を実現するためのステップ
1. 日付テーブル(カレンダーテーブル)を用意する
Power BIでは、「日付テーブル(Calendar Table)」を用意し、そこに「年度」「月」「週」「日」などの列を作って管理することが基本です。年度累計を正しく計算するためには、「この日付がどの年度に該当するのか」という情報を明確にしなければなりません。
1.1 基本的な日付テーブルの作り方
Power QueryまたはDAXで「日付テーブル」を作成します。DAXであれば、たとえば以下のようなコードを使用します。
Calendar =
ADDCOLUMNS(
CALENDAR(DATE(2023, 4, 1), DATE(2024, 3, 31)),
"年度",
IF(
MONTH([Date]) >= 4,
YEAR([Date]),
YEAR([Date]) - 1
)
)
上記例では、2023年4月1日~2024年3月31日までの日付を生成し、もし「月が4以上(つまり4月〜12月)ならその年を年度とする。1月〜3月なら前年を年度とする」というシンプルなルールで「年度」を計算しています。実際には複数年度(2020~2025など)の期間を扱うため、CALENDAR()関数の引数はもっと長い期間を設定したり、動的に設定したりします。
1.2 他の年度定義の場合
もし「1月始まり」の年度を使用する国や企業文化がある場合、式を調整すればOKです。たとえば1月〜12月を年度とするなら、MONTH([Date]) >= 1
のように書き換えて扱います。
2. データテーブルとのリレーションを設定
「売上テーブル」や「製造実績テーブル」など、分析対象のテーブルに日付を示す列(たとえば [売上日] や [受注日] など)がある場合、日付テーブルの [Date] 列とリレーションを張る必要があります。Power BIの「モデル」ビューから、下記のように設定してください。
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日付テーブル [Date] → データテーブル [売上日] (多くの場合、1対多のリレーション)
このリレーションが正しく設定されていることで、DAX関数を使った集計やフィルタリングが正しく動作します。
3. YTD(年度累計)を計算するDAXメジャーを作成
Power BIでは年度累計を表すメジャーをDAXで定義します。一般的に使われるのが TOTALYTD()
関数です。
3.1 TOTALYTD()
関数を利用する
年度累計売上 =
TOTALYTD(
SUM('売上テーブル'[金額]),
'Calendar'[Date],
ALL('Calendar'),
"3/31" // 年度終了月日を指定する
)
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第1引数:累計したい数値列(ここでは売上金額)
-
第2引数:日付テーブルの [Date] 列
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第3引数(省略可):フィルタとして使うテーブルや列を設定
-
第4引数(省略可):年度をどこで区切るか (“3/31” なら4月始まり)
「”3/31″」と書いていますが、ここを "12/31"
にすれば暦年単位(1月~12月)での累計になります。
3.2 会計年度を複数跨ぐ場合
分析対象が複数年度に及ぶ場合でも、日付テーブルに「年度」列をしっかり作り、また TOTALYTD()
の引数で年度区切りを指定しておけば、正しく累計値を計算してくれます。
4. レポートにビジュアルを配置して確認
Power BIレポート画面で「折れ線グラフ」「棒グラフ」などのビジュアルを配置し、軸(X軸)に日付テーブルの「月」や「日」を置き、値(Y軸)に先ほど定義した「年度累計売上」メジャーをドラッグ&ドロップすれば、各月(または日)時点までの累計売上をグラフ化できます。
年度累計の応用:前年同期比や期間比較
YTDを表示するだけでなく、前年同期比(YoY) を出したり、同月比較をしたりすると、より踏み込んだ分析が可能になります。
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前年同期比の計算
DAX前年同月累計売上 =
CALCULATE(
[年度累計売上],
DATEADD('Calendar'[Date], -1, YEAR)
)
ここでは
CALCULATE()
とDATEADD()
を組み合わせて、1年前の日付を参照する形で計算しています。 -
差分や成長率の算出
DAX累計売上前年対比% =
DIVIDE([年度累計売上] - [前年同月累計売上], [前年同月累計売上], 0)
%
表示にすることで、前年同月比(成長率)を見ることができます。
このように、YTDを基準にいろいろな派生指標をDAXで作成することで、経営上必要な視点を網羅できます。
ありがちな課題と対処法
● 日付テーブルを用意していない
Power BIでYTDを扱う際に、一番多いトラブルが「日付テーブルを作成せずにやろうとしてうまくいかない」ケースです。必ず自分でカスタムの日付テーブルを作成し、データテーブルとリレーションを張る習慣をつけましょう。
● 年度の定義が複雑(学校年度や海外子会社など)
海外子会社では1月〜12月、日本本社では4月〜3月というように、「複数の年度定義」が混在する場合があります。こうしたケースでは、必要なだけ日付テーブルを分けるか、あるいは日付テーブルに「グローバル年度」「国内年度」のように複数列を用意しておくと、同時に管理しやすくなります。
● Power Automate との連携、クラウドフローとの連携が複雑
Power BI と合わせて、Power Automate を使ってデータ取得や更新、通知フローを組みたい場合、フローの作りが複雑になりがちです。もしフロー設計でお困りの場合は、後述のコンサルティングサービスもご検討ください。
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まとめ
Power BIで年度累計(YTD)を扱うポイントは、日付テーブルの準備とDAXの使いこなしにあります。TOTALYTD()
関数を使えば、年度区切りをカスタマイズしつつ、累計値を簡単に表示可能です。さらに、前年同期比や成長率なども、DAXを応用することでワンランク上の分析ができます。
もし「DAXの理解が不十分」「どのように年度定義を組み込めばよいのか悩んでいる」などの課題があれば、セミナーやコンサルティングサービスを活用することで、最短ルートで問題を解決できるでしょう。Power BIは正しく使えば非常に強力な分析ツールとなり、企業のデータ活用レベルを大きく引き上げます。
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