Power BIを活用していると、「データセット」と「データフロー」という2つの概念に出会うことが多いかもしれません。一見すると同じように思えるこれらの機能ですが、実際にはデータの取り込み方や管理・再利用の方法などに違いがあります。この記事では、Power BIのデータセットとデータフローをわかりやすく比較しながら、それぞれの特徴や使い分けを解説していきます。
1. データセットとは?
1-1. 定義と役割
データセットとは、Power BIでレポートやダッシュボードを作成するためのデータの集まりやモデルのことを指します。
- Power BI Desktopで作成したクエリやモデルを発行(Publish)すると、Power BIサービス側に「データセット」が登録されます。
- レポートを作る際には、このデータセットを参照し、チャートやテーブルを描画します。
1-2. データの更新方法
データセットは基本的に、Power BI Desktop内で取得したデータを加工・モデリングし、それをサービスにアップロードする仕組みです。
- オンプレミスデータなど、社内にあるデータソースから定期的に更新する場合は、ゲートウェイを使って自動更新を設定することが多いです。
- クラウド上のデータ(Azure SQL DatabaseやSharePoint Onlineなど)であれば、ゲートウェイを介さず直接更新できるケースがあります。
1-3. 運用上の特徴
- レポートごと、またはチームやプロジェクトごとに別々のデータセットが存在することが多い。
- 更新のたびに、それぞれのデータセットを個別にリフレッシュする必要がある。
- モデルやメジャー(計算項目)はPower BI Desktopで定義するのが一般的。
2. データフローとは?
2-1. 定義と役割
データフロー(Dataflow)は、Power BIサービス上で動作する**データ抽出・変換・読み込み(ETL)**の仕組みです。
- ExcelのPower QueryやPower BI Desktopで使用している「クエリエディタ」と同様の機能を、Web上で利用できるイメージです。
- 一度作成したデータ変換ロジックを「Power BIサービス」に保存できるため、使い回しがしやすいという特徴があります。
2-2. データの更新方法
データフローでは、Power BIサービス内で設定したクエリ(M言語ベース)を定期的に実行し、Azure Data Lake Storage(内部的に使われているストレージ)に整形済みデータを格納します。
- その後、Power BI Desktopや別のデータセットからデータフローの出力を参照することで、レポートを作るためのデータを取得します。
- 更新設定(スケジュールリフレッシュ)はサービス上で行い、データフロー自体が新しいデータを定期的に取り込む仕組みです。
2-3. 運用上の特徴
- ETL処理をクラウド側に集約できるので、PC上での作業や個別のPower BI Desktopファイルへの依存を減らせる。
- 変換ロジックを一度作成しておけば、複数のレポートやデータセットで使いまわしができる。
- 大規模データや複雑な変換ロジックの場合、データフローを利用することで効率化できる場面がある。
3. データセットとデータフローの主な違い
3-1. データの取り込み・変換の仕組み
- データセット: Power BI Desktopでクエリとモデルを定義し、それをサービスに発行して利用する。
- データフロー: Power BIサービス上でクエリ(ETL)を定義し、クラウドストレージにデータを保持する。
3-2. 再利用性
- データセット: レポートやダッシュボード単位で完結しがち。別のレポートで活用するには改めてデータセットや接続を作る必要がある。
- データフロー: 一度定義したデータ変換のロジックを、複数のデータセットから参照することが可能。チーム間や部門間で使い回しやすい。
3-3. 管理と運用
- データセット: 個別プロジェクトの担当者が、Power BI Desktopで開発・管理するケースが多い。
- データフロー: より上流のデータ取り込み・変換を一本化しやすいため、IT部門などが中心となって共通基盤として管理することが多い。
3-4. 適用場面
- データセットが向いているシーン
- 規模が小さいレポートやダッシュボードを個別に構築し、運用する場合。
- ローカルPCで作業してから発行したい場合。
- 個々のアプリケーション、個別チームが自由に作業したい場合。
- データフローが向いているシーン
- 複数のレポートで共通のデータ整形ロジックを使いたい場合。
- 企業全体で標準化されたデータを提供し、重複作業やデータの不整合を減らしたい場合。
- 大規模データの取り込み・変換をクラウド側で効率よく処理したい場合。
4. 使い分けのポイント
- 共通データを扱うかどうか
- 同じデータの変換ロジックを複数のチームが使う場合は、データフローが効率的。
- 特定のレポート専用のデータなら、データセットのみでもOK。
- データの規模や更新頻度
- 取り込むデータが多く、更新頻度も高い場合はクラウド上でETLを完結できるデータフローが有利。
- 小規模で更新も少ないなら、データセット中心の運用でも十分。
- 運用体制・ガバナンス
- 企業全体でデータを統一管理しガバナンスを強化したい場合は、データフローによる集中管理がおすすめ。
- 部署やチームごとで柔軟に動きたい場合は、データセットのみで十分なこともある。
5. 組み合わせて使うメリット
実際には、データフローとデータセットを組み合わせて使うことでメリットを最大化するケースが多いです。
- データフローで共通のデータ整形ロジックを一括管理
- それを参照する形で、各チームがPower BI Desktopのデータセットを作成・公開
- 結果として、レポート作成や運用コストを大幅に削減できる
たとえば、売上データや顧客データの前処理をデータフローに集約し、複数のチームがそれぞれの視点でダッシュボードを構築するようなイメージです。これにより「同じ計算ロジックを何度も組み直す」「異なるデータ定義を使ってしまう」などのミスを防ぐことができます。
6. よくある質問と注意点
6-1. データフローは必須なの?
必ずしも必須ではありません。プロジェクトの規模が小さい場合や、共有化の必要がない場合はデータセットのみで充分です。ただし、今後スケールする可能性があるなら、最初からデータフローを活用する設計も検討すべきです。
6-2. ライセンスの違いはある?
- Power BI Proでもデータフローは作成できますが、高度な機能(リンクされたエンティティや計算エンティティなど)はPremiumライセンスが必要な場合があります。
- データセットに関しては、Proライセンスでほとんどの機能を利用できますが、プレミアム機能(大容量モデルなど)を使いたい場合はPremiumが必要です。
6-3. データフローがあればデータマートは不要?
Power BIのデータマート機能とデータフローは似た領域をカバーしている部分があります。データマートはデータの格納・簡易的なモデル化・SQLによるクエリなどが可能で、運用形態が異なる場合があります。用途に合わせて使い分けるか、併用するかを決めるとよいでしょう。
まとめ
- データセットは、Power BI Desktopで作成されたデータモデルやレポート用データをPower BIサービスに保存し、レポート・ダッシュボードで利用する仕組み。小規模~中規模のプロジェクトや個別用途に向いています。
- データフローは、WebベースでETL(Extract-Transform-Load)を管理する仕組みで、共通ロジックや大規模データの取り込みを一元化できます。複数プロジェクトで共通データを扱う際や、企業全体でのデータ統制を強化したい場合に有効です。
最終的には、組織の運用ポリシーやデータの利用状況に合わせて「データフローで共通化しつつ、データセットでそれぞれのレポートを作成する」という使い分けが主流になりやすいです。自社の現状に合わせて、ぜひ最適な方法を検討してみてください。
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