1. Power BIにおける地図ビジュアルの種類
1.1 Map(既定のマップビジュアル)
Power BIでは「既定の地図ビジュアル」として、Bingマップをベースにした地図表示がサポートされています。いわゆる「バブルマップ」に近いもので、地点ごとに丸いバブル(円)の大きさや色を使って指標を表現します。場所を表す列(「国名」「都道府県名」「緯度経度」など)を設定するだけで、Power BIの地理コーディング機能が自動的に地点をマッピングしてくれます。
1.2 Filled Map(塗りつぶしマップ)
同じくBingマップをベースにして動作するビジュアルで、国や地域のエリア全体を塗りつぶして可視化します。たとえば国別に色を変えて売上規模を表すといった使い方が代表的です。ただし、Filled Mapでは細かい境界が自動認識されない場合や、日本の市区町村レベルなどがうまく塗り分けられないケースもあるため、国レベルや都道府県レベルなど、比較的マクロな視点での利用が向いています。
1.3 ArcGIS Maps for Power BI
エスリジャパン(Esri)のArcGIS技術と連携した地図ビジュアルです。ArcGISの豊富な地図レイヤーや、空撮・ストリートマップなど多彩な表現をPower BI上で扱えるのが特徴です。無料版でもある程度利用できますが、ArcGISの有料アカウントがあるとさらに高度な機能(ヒートマップ、ドリブン分析など)を使えます。
国境だけでなく、地形や道路、行政区画のレイヤーなどを多重に重ねることができるため、より詳細・高度なGIS分析を行いたい場合に適しています。
1.4 Azure Maps
Microsoft Azureのマップサービスと連携したビジュアルです。Power BI Desktopの「ビジュアルを追加」からAzure Mapsを挿入すると、航空写真や3D、ストリート、ヒートマップ表示など、様々な描画モードを利用できます。高精細な地図表示や、カスタムアイコンによるマーク表示なども可能です。
特にAzureとの相性が高く、将来的に地理空間分析やIoTデータと組み合わせる際に強みがあります。
1.5 Shape Map(形状マップ)
Shape Mapは、都道府県・国境線などの形状データ(TopJSONなど)を読み込み、地域区分ごとに色分けできるビジュアルです。Bingマップなどの背面地図は表示しませんが、形状に対して自由に色分けやツールチップ表示が可能で、特定の国だけを表示したい場合や、都道府県区画などを明確に表示したいケースで有効です。
※Shape Mapはまだ正式機能ではない旨の注意が表示されることがありますが、実務でも十分活用されています。
2. 地理データの準備と設定
2.1 国名や地域名を使う場合
世界地図上に国ごとのデータをプロットしたい場合、最もシンプルなのは国名を表す列を用意し、それを「Data Category(データカテゴリ)」として「Country/Region」に設定するやり方です。
データ例
Country | SalesAmount |
---|---|
Japan | 1200000 |
United States | 3500000 |
Germany | 2200000 |
France | 1800000 |
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Power BI Desktopを開き、「データビュー」で
Country
列を選択。 -
右側の「列ツール」タブから「データカテゴリ」を**「国/地域 (Country/Region)」**に設定。
-
レポートビューでマップビジュアルを挿入し、「位置(Location)」に
Country
を、「サイズ(Size)」または「色(Color saturation)」にSalesAmount
を入れる。
これで世界地図上に国ごとの売上金額が反映されたマップが作成できるはずです。
2.2 緯度・経度( Latitude/Longitude )を使う場合
国レベルではなく、特定の都市や支店所在地など、より詳細な場所にポイントを打ちたい場合は緯度と経度があると確実です。Bingマップのジオコーディング機能は国名や都市名の文字列を解釈して大まかな位置を推定しますが、文字列の曖昧さで誤りが出ることがあります。緯度・経度を使えば誤りを最小化できます。
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データに
Latitude
とLongitude
の列を用意する。 -
Power BI Desktopで、それぞれの列を「データカテゴリ」で**「Latitude」「Longitude」**に設定する。
-
マップビジュアルの「緯度」「経度」枠に該当の列をドラッグ&ドロップする。
位置の特定精度が格段に高くなるため、例えば世界の営業拠点マップや顧客分布マップなどを表示する際には非常に有効です。
2.3 都道府県や県庁所在地レベルの場合
日本国内の都道府県名や市区町村名を英語で記載している場合、「Tokyo」「Osaka」など主要都市は正しくプロットされますが、小規模市区町村や日本語表記(例:東京都渋谷区)だと誤判定されることがあります。
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対処策:
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**「都道府県名, Japan」**のように国名を併記する。
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Power Queryなどで、
Prefecture & ", Japan"
という列を作り、「住所」としてマップに設定。 -
さらに確実性を高めるには緯度・経度を取得し、そちらを使用する。
-
-
Shape Map活用:
日本の都道府県境界をShape Mapに読み込めば、都道府県単位で塗り分け表示が可能です。
(たとえば「Japan.json」などのTopJSONファイルを利用)
3. 世界地図ビジュアルを作る実践ステップ
ここでは、Power BI Desktopを使って「世界の国ごとの売上」を可視化する例を通して、具体的な操作手順を紹介します。
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データ取り込み
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ExcelやCSVから「Country」「SalesAmount」列を含むテーブルを読み込む。
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必要に応じてPower Queryで列名やデータ型を調整。
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地理カテゴリの設定
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データビューに切り替え、
Country
列を選択し、「列ツール」→「データカテゴリ」を「Country/Region」に設定。 -
これにより、Power BIはこの列が国名を表すことを理解し、ジオコーディングをスムーズに行う。
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マップビジュアルの挿入
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レポートビューで「マップ」ビジュアルアイコンをクリック(グローブのようなアイコン)。
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キャンバス上にビジュアルが追加される。
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フィールドの配置
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「位置(Location)」枠に
Country
列をドラッグ&ドロップ。 -
「サイズ(Size)」枠に
SalesAmount
(売上金額)列をドラッグ&ドロップ。 -
必要に応じて「ツールチップ」に他の指標(数量や前年売上など)を配置すると、マウスオーバー時に追加情報が表示される。
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ビジュアルの書式設定
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「書式」ペインで、バブルの色や透過度、マップスタイル(道路地図、モノクロなど)を調整。
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ズームコントロールやラベルの表示/非表示なども細かく設定できる。
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動作確認
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国名が正しく認識され、各国に円バブルが打たれているかを確認。
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日本語表記の国名がある場合、正しく解釈されないケースがあるので注意。
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フィルタやスライサーと連動
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地域や年度などのスライサーを追加すれば、ユーザーが任意の条件で絞り込んだ際に、マップ上のバブルも動的に変化していく。
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大陸別、グループ別に色分けしたい場合は、新しい列を追加して紐付けするなど工夫が必要。
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上記の手順で、シンプルな世界地図の売上マップを作成できます。世界規模での分析をするとき、国ごとのバブルマップは非常に視覚的なインパクトを与えられます。
4. 効果的な地図可視化のテクニック
4.1 カラーコーディングの工夫
バブルの大きさと色を同時に表現することで、より情報量を増やすことができます。たとえば:
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バブルの大きさ → 売上金額
-
バブルの色 → 利益率(高いほど赤、低いほど青、などのグラデーション)
また、塗りつぶしマップを使う場合は、一色の濃淡ではなく**分割(段階値)**で色を切り替えると、地域間の差異をはっきり見せられます。
4.2 ツールチップの活用
地図上のバブルや塗りつぶし領域にマウスオーバーした時に表示されるツールチップに、追加の指標やテキスト情報を表示させると便利です。複数の数値指標だけでなく、DAXで計算した差分や増減率などを表示すれば、ユーザーが地図を眺めるだけで詳細分析が可能になります。
4.3 ボタンやブックマークで視点を切り替える
世界地図ビジュアルを作るとき、しばしば「グローバル全体」と「特定地域(アジア、ヨーロッパなど)」を切り替えたい要件があります。
Power BIのブックマーク機能を使えば、地図の拡大・縮小やフィルタの状態を保存し、ボタン一つで切り替え表示できるようにできます。アジア圏だけにズームしたブックマーク、ヨーロッパ圏だけにズームしたブックマーク、といった形でレポートを設計すると使い勝手が良くなります。
4.4 ショープマップ (Shape Map) で国境を明確に
世界地図を塗りつぶしで表現する場合、Shape Mapビジュアルを利用し、世界各国の境界線を示すTopJSONファイル(世界地図の行政区画データ)を読み込むことも可能です。Bingマップよりも細かい境界が見やすく、またオフライン寄りの地図表示ができるという利点があります。
5. よくあるトラブルとその対処法
5.1 データが正しく地図に反映されない(場所の誤判定)
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原因:Bingマップの地理解釈が誤っている。例:Tokyoと書いたつもりがアメリカの「Tokyo」を指しているなど。
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対処法:
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「Tokyo, Japan」のように国名も付与する。
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データカテゴリを適切に設定する。
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緯度・経度を明示的に設定する。
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5.2 バブルが見えない(大きすぎまたは小さすぎ)
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原因:売上金額などの値が非常に大きいとバブルが画面を覆ってしまい、他のバブルとの比較が難しい。逆に、あまりに値が小さいと見づらい。
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対処法:
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ビジュアルの書式設定でバブルの最小サイズ・最大サイズを調整する。
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対数スケールなどを検討してみる。
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バブルではなく塗りつぶしマップや別の可視化手法(ランキング表など)を併用する。
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5.3 国名が日本語表記で正しくマッチしない
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原因:地図サービスが英語表記を期待している。
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対処法:
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Power Queryで列を英語に変換する、もしくは「… , Japan」のように後ろに国名を追加する。
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できるだけ緯度・経度を導入する。
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5.4 ArcGISやAzure Mapsで追加機能を使えない
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原因:ArcGISは無料版だと制限がある、有料サブスクリプションが必要な機能がある。Azure Mapsも一部サブスクリプション契約が必要。
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対処法:
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無料枠で使える範囲を事前に把握する。
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企業向けに広くGIS活用したいならArcGISライセンスを検討する。
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Azureサブスクリプションの予算計画を確認する。
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6. 応用:地図と連動した詳細分析
6.1 地図ビジュアルとテーブルビジュアルの連動
Power BIでは、地図ビジュアルをクリックすると、その地域だけに対応するデータがクロスハイライトされ、同じページにあるテーブルや棒グラフが絞り込まれます。逆にテーブルから特定の商品を選択すると、その商品の売上が発生した地域だけが地図上で強調表示されます。
これにより、ダッシュボードを使うユーザーは、「地図→詳細データ」「詳細データ→地図」の流れをシームレスに行き来でき、原因分析やインサイトの発見がスピーディになります。
6.2 マップ上のヒートマップやクラスタリング
ArcGISやAzure Mapsの機能を使えば、ヒートマップ(密集度合いに応じて色を変える)や、データの類似性によるクラスタリングをマップ上で行うこともできます。
たとえば世界各地の支店の売上や顧客数がどこに集中しているかを、色の強弱で視覚化できるため、一目でビジネスチャンスが高い地域を把握できます。これらの機能は標準のMapビジュアルには無いので、高度な地理空間分析をしたい場合に重宝します。
6.3 カスタムの境界データを使った分析
Shape Mapを応用し、たとえば各国の州境、県境などの境界データを読み込んで、地域区分の細かい違いを可視化する手法もあります。独自の営業エリアや市区町村境などのGeoJSON/TopoJSONデータがあれば、さらに細かい地域分析が可能です。
ただし、境界ファイルの作成・メンテナンスにはやや知識と手間がかかるため、まずは国レベルや都道府県レベルといった大まかな分析から始めるのが無難です。
7. パフォーマンスと最適化のポイント
地図ビジュアルは、Power BIがBingやArcGISなど外部サービスと通信して描画するため、下記の点に気をつけましょう。
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データ行数を抑える
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地図上に数万〜数十万件ものバブルを描画しようとすると、表示が重くなりがち。
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必要に応じて
COUNTROWS
や集計テーブルを使って事前に集約し、地図ビジュアルに渡す明細を減らす。
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キャッシュと接続環境
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開発環境(Desktop)とクラウド(Power BI Service)では地図の応答速度が異なる場合がある。
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インターネット接続速度や、Bing/ArcGIS側のレスポンスにも依存するため、利用規模に合わせた準備が必要。
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フィルターの使いすぎ注意
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スライサーやページレベルフィルターを多用すると、地図描画のたびにクエリが走り、パフォーマンスが低下するケースも。
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適切な最適化やインポートモードの活用を検討する。
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8. まとめ
Power BIで世界地図を活用することで、国別の売上や生産拠点、輸出入データ、顧客分布など、さまざまなビジネス情報を直感的に把握できます。特にグローバル規模のデータを扱う企業や、海外支店・海外市場を持つ組織にとって、地図可視化は非常に強力なツールです。
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基本的なマップビジュアル(バブルマップ、塗りつぶしマップ)だけでも、国や都市ごとの指標を簡単に描画可能。
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さらにArcGIS Maps for Power BIやAzure Mapsを活用すれば、ヒートマップや3D表示など、高度なGIS的表現が可能。
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正確な地理情報を得るには、できれば緯度・経度を用意するのがベスト。文字列ベースの場合は国名や都市名をきちんと整形し、Power BIのデータカテゴリを正しく設定することが大切。
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Shape Map(形状マップ)を使えば、各国や都道府県の境界線を活かした塗り分け表示ができる。特定のエリアだけをクローズアップする際に便利。
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地図と他ビジュアルの連動、ブックマークによるズームの切り替え、ツールチップの活用など、Power BIの標準機能を組み合わせることで、よりインタラクティブで分かりやすいレポートを作成できる。
最後に、データが正しく地図上で認識されないというトラブルは非常に多いので、以下を再確認しましょう。
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**データ列の「データカテゴリ」**を設定しているか?
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国名や都道府県名に英語表記が必要か、日本語表記でも認識されるか?
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緯度経度を使えるなら積極的に使う(地図の精度が上がる)
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塗りつぶしマップは国レベルや州レベルなどの比較的広域スケールに向いている。詳細レベルの境界表現にはShape MapやGeoJSONを検討する。
地図ビジュアルは見栄えが良く、社内外へのプレゼンやダッシュボードでも高い訴求力を持つため、データストーリーテリングの観点でもおすすめです。これを機にPower BIで世界地図ビジュアルを試してみて、地域・国ごとのデータがどのように分布しているのかを可視化してみてください。もし上手くいかない場合は、データカテゴリの見直しや緯度経度の導入、もしくはShape MapやArcGISへの切り替えなどを検討してみると、よりスムーズに目的の可視化が実現できるでしょう。
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